大学生の時に、ひょんなことからお茶を習い始めた著者。
母の知人である、素敵な女性の武田さんが茶人で、毎週土曜日に教わることになります。
最初はかなりきついです。
先生はお茶には決まりがあり、動きや角度や距離や速度などを、全て型通りに教えます。
これが本当に多くて、とてもすぐに覚えきれるものではありません。
ではメモを取ろう、と著者は考えますが、先生に止められます。
手に聞いてご覧なさい。
頭で考えるのでは無く、体に覚えこませる、ということなのかも知れません。
ようやくある程度覚えてきたと思うころには、季節が寒い時期に移り変わるところでした。
そこで茶室に入ると、目を疑うような光景がありました。
炉が出ているのです。
これにより、今までと座る向きや作法が、ガラリと変わります。ほとんど最初からやり直し、というほどに。
ある時、雨音がとても明瞭に聞こえるようになったり、掛け軸の言葉に突然気がついたり、体が不思議な感覚に包まれるような描写が出てきます。
これはおそらく、ゾーンとか、悟りの境地と言われる物と同じなのだと推測されます。
読んでいて、静寂や四季やもっと奥深いものを、度々意識します。
お茶は、日常から遠い世界にトリップする体験なのかも知れません。