愛すべき本たちの備忘録。たまにかたい本も。

様々な書評です。参考にして頂けると幸いです。

『消された一家 北九州・連続監禁連続殺人事件』豊田正義

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松永太という男が引き起こした、大量連続監禁殺人事件です。

裁判では松永太とその妻である緒方純子が共謀して、緒方の親族を次々に殺害した、とされています。

しかし著者の見解のように、松永以外の供述を組み合わせると、どうやらそれは間違っていると言えそうです。

 

松永と婚姻関係を結んだ純子。

しかし、一般的な結婚生活とは全く異なる、奴隷のようなものでした。

公然と浮気をされても文句も言えず、異常な回数の電話連絡を義務づけられ、行動の自由もままならない。

あらゆる手段を用いた洗脳により、考える力を奪われていきます。

どんどんエスカレートしていった先が、表題の事件です。

純子は実の父母、妹夫婦とその2人の子ども、さらにもう1人の他人を騙して殺害します。

驚くべきことに、全ては松永は手を下していないのです。

それどころか、示唆するだけで、命令することさえしていません。

松永の弁では、勝手に殺し合っていった、ということになります。

 

なぜこのようなことを、純子たちがするはめになってしまったのか。

各種の犯罪を取材してきた著者でも、松永の気持ちがわからない、と言います。

 

ある強姦殺人事件の死刑囚は、大久保清死刑囚を引き合いに出して、こう言いました。

「オレたちみたいなのは、死刑になっちまった方がいいんだ。あんな事をしたいという衝動が抑えられないんだ」

もし刑務所から出たら、また同じことをするだろう、自身でそのように分析しています。

ひょっとしたら、松永も同じようなものかも知れません。

人を隷属させたいという、異常な強い欲望がある。そしてそれは、相手に殺人を犯させるほど強く隷属させている、という所にまで及ぶ。

ヒトラースターリンなどの相似形だと考えれば、ある程度の説明はつくような気がします。

あるいは、それ以上に異常とも言えそうです。