愛すべき本たちの備忘録。たまにかたい本も。

様々な書評です。参考にして頂けると幸いです。

『危機の時代の歌ごころ』今野寿美

 

死に死にたまうことなかれ

反語の言い回し:強く述べるために逆の言い方をして疑問形で結ぶ

例)あなたの親は人を殺して死ねと24まで育てたのですか?

 

一連毎の趣旨が明確、フレーズと配置が丹精、リフレインが効果的、七五調、弟を思う心情から戦争の悲惨さを訴え、詩歌ならではの美しさ

 

批判でも、私に対する先生の厚意に感謝したい

 

作者の心情に沿った読みが第一義

 

いくさ(兵士)らが 注ぎし血かと分け入りて 見し草むらの なでしこの花

 

日支停戦の記事を心に願いつつ 今日も白白と目覚めたり

 

血に染みて 我を拝みし紅槍匪の 生々しき記憶が 4、5日ありき

 

ひきよせて 寄り添うごとく刺ししかば 声も立てなく くづおれて伏す

 

戦時中、多くの人々にとって、歌に想いをたくすのは、なぐさめや心の支えだった。

 

先生!もういいですかと手榴弾を握り締めたる乙女らの顔

 

炎なかくぐり抜けきて川に浮く 死骸に乗っかり夜の明けを待つ

 

検閲が特に広島で厳しいとささやかれた

→原爆の残酷さを隠したい米軍の思惑か

 

「まつだよしこはここにいます」と叫ばなくなりて落葉に顔伏する見き

 

2007年6月、防衛大臣が米軍の原爆投下に「しょうがない」と発言

→辞任に追い込まれた

 

空襲のさなかに蝶のあそぶ見てしみじみ人のおろかさに泣く

 

ソ連参戦2日の後に夫が呉れしナルコポン・スコポラミンの致死量

 

まざまざと天変地異を見るものか欺く凄まじき日にあうものか

 

何か危機的な時代に、個々人の心を短歌にするのは、記紀時代から続くスタイル。言葉の霊感、言霊祈りをこめる

 

祈るべき 天と思えど 天の病む

 

ときにふと心すませばわが胸に 燃ゆる火ありて 淨きおとたつ

胸のうちに火を育む→弱者の声を聞き、世に伝え残すことに他ならない

 

ハンセン病は「天刑病」とも呼ばれ、それがさらに差別を助長した

 

耳の孔 さぐらるるとき とぼしくも

ここに残りて 痛覚はあり

 

キュリー夫妻の亡骸は鉛に覆われ埋葬されている

 

命令や禁止ではなく自粛こそ見えないコイルのように巻きつく

 

行動しないのは、自分の誠意、心、意思を裏切るに等しい

 

それは無理 わかってはいる さはされど 今すぐ廃炉 叫びいる人

 

家々を追われ抱き合う赤鬼と青鬼だった我ら2人は

 

歌にすると理解しやすかったり、言いやすかったりする部分はあるかも知れません。

私たち日本人には、記紀の時代から続く伝統なのだから。

短いからこそ行間や多くのものを読み取るのは、日本人の得意なところなのでしょうね。