愛すべき本たちの備忘録。たまにかたい本も。

様々な書評です。参考にして頂けると幸いです。

『上を向いてアルコール』小田嶋隆

f:id:kazuyoshisan:20200723165109j:image

コラムニストの著者が本書を執筆したのは、62歳のときです。

断酒して20年経ったそうです。

サブタイトルにもありますが、元アル中です。

本書のテーマはアルコール依存症

著者はこのテーマについて考えるのが嫌で、ずっと避けて来たそうです。

これだけの年月が過ぎて、やっと書けるようになり本書が刊行されました。

淡々と書かれていますが、実に壮絶な内容です。ひょっとしたら本人は自覚していないのかも?と思わせるような口調で、それがより恐ろしさを強調します。

 

アル中になるくらい飲むのに理由は無い。

 

飲み仲間とは薄い付き合いで外では会わない。

 

アル中は自分ではそれを認めない。

 

アルコールに依存する体質があるけど、依存物質があるわけではない。

そう主張するライターがいた。

 

著者はついに幻覚を聴くようになり、精神科を受診します。

そこでアル中だという診断を受けます。

「あなたはまだ30代だから、困った酔っ払い、くらいでなんとかやっているのだと思う。だけど、40で酒乱、50で人格崩壊、60になるとアルコール性脳萎縮で死にますよ」と言われます。

 

飲むのをやめてから、音楽や読書や野球観戦がつまらなくなります。そこで、それらの嗜好が酒により書き換えられていたのだと、気づきます。

 

著者は酒をやめてから、色々なものを失った、という寂しさを持ちます。

 

立食パーティーは、酒を飲んでいれば何とかなったが、素面で行くとくだらないので、大嫌いになった。

 

酔っ払いという立場で発言すれば、無茶を言えていた。

 

毒舌も同じ。

 

打ち合わせや企画を、酔ったから言いますけど、という発言でキモを決めていた。

 

「元アル中」コラムニストの告白

というサブタイトルで、アル中で苦しんでいる仲間にとって、お釈迦様の蜘蛛の糸、のようなものになれれば、と本書を執筆したそうです。

そして自身を、断酒中のアルコール依存者、とも言っています。

確かに気をつけて読むと、その通りです。

失ったもの達は、別にお酒が必要なものでは無く、やはりまだ飲みたいのかな?とも取れます。

また、発言や毒舌については依存者のエゴも垣間見えて、お酒の怖さが浮き彫りになります。

注意して読むと、本当に壮絶な内容です。

お酒を飲む人は、必ず得ることがあるはずです。