愛すべき本たちの備忘録。たまにかたい本も。

様々な書評です。参考にして頂けると幸いです。

『海と毒薬』遠藤周作

f:id:kazuyoshisan:20210206145221j:image

口数の少ない、しかし、腕は確かな医師勝呂。

戦時中の雰囲気がありありと残る時代にあっても、その人物は特徴的です。

腕は確かだけど、温かい治療を受けているのではなく、冷たい感触を患者は持ちます。

そんな彼には、重大な過去がありました。

それは大学病院に在籍していた当時、敵国の捕虜の人体実験に立ちあった、というものです。

実験後は亡くなってしまうので、殺人と言い方を変えても良いかもしれません。

実験に突き進むまでの、大学内で出世争いの様子。

参加した各人の背景や心情。

神はいるのか?と、その中の一人が問います。

 

戦時中という、人の命が軽んじられる状況だったことは、確かです。

それでも、人を殺めて良いことにはなりません。

それが、ただ殺すだけではなく、医学の進歩に多少なりとも寄与するところがあったとしても、です。

しかし、本当にそうなのか?

そもそも参加者は、そこまで考えていたのか?

 

生と死について。

自分の考え方や生き方について。

戦争について。

様々なことがテーマになり得る作品です。

ただ言えるのは、ある人には、殺人は耐え難いかも知れない。

またある人は、人の死を感じることさえ出来ないかもしれない、ということです。